何が起きているか
蒸気に手をかざすと押される。あの力で筒の中の円板を押す。それだけの機械です。
でも、押すだけでは一往復もしません。押し切ったらそこで終わりです。 このエンジンが回り続けているのは、押した力で軸を回し、その軸が次に蒸気を入れる場所を切り替えているからです。出力が入力を作っている。ここが蒸気エンジンの核心です。
上のビューアは最初から断面になっています。手前半分を落としてあるので、いつもは鋳物の中に隠れている部分が見えます。切り口の色で見分けてください。
- 赤い切り口 — 動かない鋳物(シリンダー、蒸気室)
- 黄色い切り口 — 動く部品(ピストン、滑り弁)
まず「再生」を押して、全体をひととおり眺めてください。そのあと一時停止して、位相のつまみを左右にゆっくり動かすと、どの部品がどの順で動くかが見えます。
往復を回転に変える
右の太い筒がシリンダー、その中を左右に動いている黄色い切り口の円板がピストンです。行って戻って、また行く。まっすぐ往復するだけです。
左の大きな車輪はフライホイールで、こちらは回っています。
往復と回転。動きの種類が違うこの2つをつないでいるのが、真ん中の細長い棒 **連接棒(れんせつぼう)**です。
連接棒の両端を見比べてください。
- 右端はピストンといっしょに、左右にまっすぐ動く
- 左端は軸のまわりを、ぐるりと円を描く
左端がついている軸がクランク軸です。軸の中心から 35mm ずれた位置にピンが立っていて、そのピンが円を描く。ピストンは 70mm(ずれの2倍)の幅で往復します。
連接棒は首を振ることで、この「まっすぐ」と「まわる」のずれを吸収しています。位相のつまみを動かしながら連接棒だけを目で追うと、棒が上下に首を振っているのが分かります。
この首振りには副作用があります。棒が斜めになると、ピストンを横に押す力が出る。そのままではピストンがシリンダーの壁を削ってしまいます。
そこで連接棒とピストンのあいだにクロスヘッドを挟みます。連接棒からの横向きの力を、上下の滑り棒が受け止める。だからピストンロッドはまっすぐな力しか受けません。部品の切り替えで「クロスヘッド」を選ぶと、この受け止め役だけが残ります。
蒸気の出入りを切り替える弁
ここからが本題です。
ピストンを右に押したいときは、左側に蒸気を入れる。左に押したいときは、右側に入れる。しかも押し終わった側の蒸気は、同時に外へ捨てないといけません。捨てないと、その蒸気が戻ってくる動きの邪魔をします。
入れると出すを、左右で入れ替えながら、毎回やる。これを1個の部品でやっているのが**滑り弁(D弁)**です。
シリンダーの上に載っている箱が蒸気室で、中は常に高圧の蒸気で満たされています。その中で、伏せた箱のような滑り弁が 24mm だけ左右に往復しています。
弁の断面をよく見てください。中央がくぼんだ、伏せたコの字の形をしています。この形が全部を決めています。
- 箱の外側の縁が片方の蒸気口をふさいでいるあいだ、その口には蒸気室の高圧蒸気が入る
- 同じ瞬間、箱の内側のくぼみが反対側の蒸気口と、真ん中の排気口をつないでいる
つまり押す口と捨てる口が、いつも反対側の組になっている。弁が反対へ滑れば、役割もそのまま入れ替わります。1個の部品で足ります。
弁を動かしているのは、クランク軸に付いた偏心輪です。中心をずらした円板で、要は半径 12mm の小さなクランクです。ここを見てください。
偏心輪はクランクより 125° 進んだ向きに付いています。
だから弁はピストンより先に動きます。ピストンが行き止まりに着く前に、次の行程の蒸気口を開け始める。着いてから開けたのでは間に合いません。蒸気が流れ込んで圧力が立ち上がるまでには時間がかかるからです。
位相のつまみをゆっくり動かして、ピストンと弁を交互に見てください。ピストンがまだ右に進んでいるのに、弁はもう左へ向かっている瞬間があります。それが「先に動く」ということです。
この進み具合を遅らせると、機関は力が出なくなり、やがて止まります。
死点を越えさせるフライホイール
位相を 0 ちょうどに合わせてください。ピストンがいちばん右、連接棒とクランクが一直線になります。
この瞬間、蒸気がどれだけ強くピストンを押しても、クランクは回りません。押す方向が軸の中心をまっすぐ向いているからです。ドアの蝶番のすぐ横を押しても開かないのと同じです。この位置を死点といいます。
死点は1回転に2回、左端と右端で来ます。
ここを通り抜けさせているのがフライホイールです。重い車輪がそれまでに溜め込んだ回転の勢いで、力の出ない一瞬を惰性で越える。越えた先ではまたクランクに角度がついて、蒸気の力がきちんと回す力に変わります。
フライホイールにはもう一つ仕事があります。蒸気の押す力は1行程のあいだで一定ではありません。入ったばかりは強く、膨らむにつれて弱くなる。その強弱を重さでならして、なめらかな回転にしています。
止まっている蒸気機関が、弁の位置によっては自力で起動できないのも同じ理由です。運悪く死点で止まると、蒸気を送っても動き出しません。だから昔の機関には、手で車輪を回して始動させる作法がありました。
両側から押す(複動)
もう一度シリンダーの断面を見てください。蒸気の通り道が、ピストンの左右どちらにも通じています。
これが複動です。行きも帰りも押される。
片側だけ押す単動では、帰りの行程は完全に休みで、フライホイールの惰性だけが頼りです。複動なら1回転で2回押される。同じ大きさで倍の仕事をし、回り方もなめらかになります。
そして滑り弁は、この「2回押す」を1個の部品で成立させています。押す側に蒸気を入れながら、同時に反対側を排気につないでいるからです。
もう一度、全体を
ここまでの流れをつなげます。
- 蒸気室から蒸気がピストンの片側に入り、押す
- ピストンロッドがクロスヘッドを押し、連接棒がクランクを回す
- クランク軸が回ると、同じ軸の偏心輪も回る
- 偏心輪が滑り弁を往復させ、蒸気の入る側と出る側を入れ替える
- ピストンが逆向きに押され、1 に戻る
外から制御している装置はどこにもありません。蒸気を送り込むだけで、あとはこの輪が自分で回り続けます。
最後に、モデルの上に出ている印(注釈)を順に開いてみてください。ここで文章にした場所が、実物のどこなのかつながります。じゃまなときは「注釈」ボタンで消せます。
部品の説明
ビューアの部品ボタンと同じ並びです。
- フライホイール
- 重い車輪。行程ごとにばらつく力をならし、死点を惰性で通り抜けさせる。
- クランク軸
- 往復をここで回転に変える。ピンが軸から 35mm ずれているぶんが行程の半分。
- 連接棒
- 片端は円を描き、もう片端はまっすぐ動く。首を振ることで両者をつなぐ。
- クロスヘッド
- 連接棒の首振りで出る横向きの力を滑り棒が受け止める。だからロッドは真っ直ぐ動ける。
- ピストン
- 複動なので前後どちらの面にも蒸気が当たる。1 回転で 2 回押される。
- シリンダー
- 鋳物の中に、弁座から両端へ回り込む蒸気の通り道が鋳込んである。
- 滑り弁(D弁)
- 伏せた箱が弁座を滑る。外側の縁で片方に蒸気を入れ、内側のくぼみで反対側を排気につなぐ。
- 蒸気室
- 常に高圧の蒸気で満たされた箱。滑り弁はこの中に沈んでいる。
- 偏心輪と偏心棒
- 中心をずらした円板。半径 12mm の小さなクランクとして働き、弁を往復させる。
- 弁棒
- 偏心棒の動きを蒸気室の中の滑り弁まで伝える棒。
- 主軸受
- クランク軸を支える真鍮のメタル。ここだけが回転を受け持つ。
- 台座
- シリンダーと軸受の位置関係を狂わせないための鋳物のベッド。
